怒られない遅刻の理由

朝、寝坊をして飛び起きる。
あわわ。
電光石火で身支度を整え、会社へ。
上司に遅刻の理由を問われ、私は答える。
「寝坊しました☆」
上司の顔はマグマの様に赤く染まり、しゅーしゅーと湯気が昇り始めた。
怒号、叱咤、叱責。
心がバーストしそうだ。

私は正直者である。
寝坊したと言えば上司は怒るだろうと予想はしていた。
だが、それでも嘘をつかずに正直に理由を言った。
そこはさぁ、ぶっちゃけ評価してほしいよね。
童話の金の斧、銀の斧のように、「正直なあなたにはコレを差し上げましょう」と言って有給消化の一つでも寄越せ。
または初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンの桜の話のように「お前の正直な答えは1000本の桜の木より値打ちがある」と言って金一封ぐらい出せや。
幼少時代に散々「正直＝正義」と教えられてきた結果がこれってのはどうなんだ。
大人ってほんとダーティだよな。
まぁ32歳のいい大人である私が言うのもなんだけどね。

いい大人である私は、考えてみた。
今回、上司の怒りは「遅刻」よりも「寝坊」に向けられていた。
それもそのはず、遅刻は絶対的な悪事ではなく、理由によっては仕方のないことだからである。
例えば通勤電車が止まった場合など、自分が起因ではない理由には寛容なのだ。
それでも鬼が付くような上司であれば「止まっても遅刻しないように早めの電車に乗れ」なんて言うだろうが、それでも「寝坊した」というよりはいくらかマシだと思う。
つまり、正直に「寝坊した」と言うよりも、嘘で「電車が止まった」と言う方が怒られない。
「正直者がバカを見る」とは、まさしくこのことである。

嘘、ついたろ。
嘘にまみれたろ。
私はそう決心した。
そのために遅刻しても怒られない理由を考えてみる。
そもそも怒られる遅刻の原因は、自分の怠慢さが起因したものである。
寝坊はまさしく怠慢の真骨頂。
「電車に乗り遅れた」なんていうのも、少し怠慢さを感じるところだ。
逆を言えば怠慢起因ではない理由なら怒られないとも言える。
「電車が止まった」など、自分がいくら真面目に生きてても避けられないものは怒られないのである。
だからと言って何でもかんでも
「いや、電車が…」
「道路が渋滞していて…」
「もの凄い雪が…」
など、交通機関や自然災害を理由に嘘をつくと必ずバレる。
その上、嘘だと疑われなかったとしても「何が起きてもいいようにもっと早く家を出ろ」と言われてしまう。
体調不良も同じで、多少の心配はしてくれるかもしれないが、「日頃からちゃんと体調管理しておけ」と嫌味を言われる可能性は高い。
あくまでも嘘を付くなら「バレない」「怒られない」「嫌味を言われない」ぐらい完璧なものでなければダメである。

完璧な遅刻の理由とは何か。
それは「仕事より優先すべきこと」である。
例えば人命なんてのは最高と言える。
「母が倒れてしまって…」
なんて言われたら、さすがの鬼上司、悪魔上司でも何も言えない。
嘘っぽいなぁと疑っていたとしても、それに対して何か小言を言うのは人間的、道徳的によろしくないからである。
これだね。
これこそ完璧な遅刻の理由だね。

さすがに毎回家族の誰かをバーチャル体調不良に陥れるのは気がひけるし、一人暮らしなら家族うんぬんは使えない。
それならばバーチャルおばあさんでもいいだろう。
「道でおばあさんが倒れていたので…」
あれ？
なんか、めっちゃ嘘っぽい。

モンスターエナジーの効能

エナジードリンクのモンスターをよく飲む。
最低でも1日1本、ひどいときは3本飲んでしまうときもある。
あまりに飲み過ぎて糖尿病が心配な梅もまだだし桜もまだな今日この頃。
私はやはりモンスターを飲むことで、日々の激務に耐えている。

有難いことに会社に設置されている自動販売機にはモンスターが売られており、私は出勤時に必ず買い、グビグビと飲んでいる。
つい先日もいつも通りモンスターを飲んでいたら、事務員の女性に
『あ、●●さんってモンスター飲むんですね…』
と話しかけられた。
妙にマイナスな言い方である。
なぜだろう？
モンスターは低俗な飲み物なのか？
がぶ飲みメロンソーダに比べたら随分と高尚な飲み物だと思っていたのは間違いだったのか？
やはりイケてる男はペリエとか飲まないとダメなのか？
事務員の女性が給湯室で同僚に
『ちょww●●がモンスター飲んでたんだけどwwぷげらぁww』
とか言ってる幻聴が聞こえた。
健全な精神状態を保つために、その日の私はモンスターを3本飲んだ。

そしておととい。
またバカの一つ覚えの如くモンスターを飲んでいると、件の事務員の女性がきて
『●●さんがモンスター飲んでたので、私も飲んでみました』
『意外においしいですね』
と話しかけてきた。
今度は妙に好意的である。
この数日間で彼女に何があったのだろうか？
まさか私の好感度が知らぬ間に爆上げされたのか？
それとも持っていたモンスターエナジージャパン合同会社の株が急騰したのか？
よくわからないが、もしかしたら彼女は私に好意を…と思うとテンションが上がって上がってウハハハハ。
健全な精神状態保つため、その日の私はモンスターを6本飲んだ。

プラシーボ効果という素敵な勘違いが私を生かしている。

仏滅の憂鬱

コンビニのトイレに入った際、壁にカレンダーが貼ってあった。
何気なく今日のところを見ると「仏滅」と小さい字で書いてあるではないか。
この文字のインパクトよ。
仏が滅すると書いて仏滅。
これが良いことを示していると思うか？
思えんのか？
いいや。
絶対に悪いことを示してる。
パッと見ただけで、視界の端にちらりと映っただけでも気分がどんよりと暗くなる。
ワナワナ震える。
世界の終わりだ。
絶望だ。
阿鼻叫喚。
まぁ、意味は知らないんだけど。

気になったのでネットで調べてみた。
まず仏滅とは先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の六つからなる六曜のひとつである。
では六曜とは何かというと、簡単に言えば占いで、なかでも仏滅は6つのうちで最凶の日だそうだ。
名は体を表すではないが、見た印象そのままである。
最凶の日というのだから、今日はどうしようもなく不運に襲われるのだろう。
私は恐怖に戦慄いた。
救いは…。
救いはないのか…。

………あった。
Wikipediaに記載されている仏滅の項目の最下部にはこう記されている。

・また『物滅』として「物が一旦滅び、新たに物事が始まる」とされ、「大安」よりも物事を始めるには良い日との解釈もある。

おおおおおおお。
曇天を割って差し込む一条の光。
神の垂らした蜘蛛の糸。
これこそ救いだ。
素晴らしいね。
つまり、今、コンビニのトイレを占領して「仕事行きたくねぇなぁ」と悲嘆している私は一旦滅びる。
そして、何事も成功することが約束された新たなる私が生まれるわけだ。
フハハハハハハハハハハハハハ。
俄然、ポジティブ思考になってきたぞ。
ふつふつと体の奥から活力が湧き上がり、テンションは急上昇して二徹から朝一でパチンコに行くときのようなイカれ具合だ。
仏滅だぁ？
最凶だぁ？
笑止っ！
私は勢いよくトイレのドアを開け、店内を走り抜け、自動ドアを突き破って外へ出た。
空は快晴、南風。
歌う木々に踊る鳥。
天上天下唯我独尊。
新しい私、爆誕。
おぉ、世界は美しい。

私は何かを始めるべきだと思った。
だって今日は仏滅だもの。
だから、そう。
私は書いた。
指がフリックするがままに。
愛のままにわがままに。
書き終えた文章はひどく稚拙な駄文に思えた。
が。
そんなわけはない。
だって今日は仏滅で、書いた私は新しい私なのだから。

そんな壮大な理由があって、今日、ブログを始めた。